大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

宮崎地方裁判所都城支部 昭和48年(手ワ)7号 判決

原告 中島俊文

被告 前畑五男

被告 坂本萬七こと 阿渡萬七

主文

被告らは各自原告に対し、金一、〇〇〇、〇〇〇円およびうち金五〇〇、〇〇〇円に対する昭和四七年三月一六日から、うち金五〇〇、〇〇〇円に対する同年同月二六日からそれぞれ完済まで年六分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告らの負担とする。

この判決は仮に執行することができる。

事実

一、原告は、主文第一・二項と同旨の判決ならびに仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、つぎのとおり述べた。

(一)  原告は、左記表示(1)、(2)のとおりの約束手形二通(以下本件(1)、(2)の手形という。)を所持している。

(1)(イ)  金額 金五〇〇、〇〇〇円

(ロ) 満期   昭和四七年三月一五日

(ハ) 支払地  都城市

(ニ) 支払場所 株式会社宮崎銀行都城北支店

(ホ) 振出地  都城市

(ヘ) 振出日  昭和四六年一二月二五日

(ト) 振出人  被告前畑五男

(チ) 受取人  被告坂本萬七こと阿波萬七

(リ) 第一裏書 被告坂本萬七こと阿渡萬七から原告へ裏書

(2)(イ)  金額 金五〇〇、〇〇〇円

(ロ) 満期 昭和四七年三月二五日

その余の手形要件の記載および裏書関係は、(1)の手形のそれに同じ。

(二)  被告前畑五男は、右各手形を振り出した。

(三)  被告坂本萬七こと阿渡萬七は、右各手形に拒絶証書作成義務を免除して裏書をした。

(四)  原告は、満期前に右各手形の振出人である被告前畑との間において右各手形の支払場所を変更し同被告の住所で呈示するとの合意が成立していたので、右各手形を満期に同被告に対しその住所で支払のためそれぞれ呈示したが、いずれも支払がなかった。

(五)  そこで、原告は、被告ら各自に対し本件(1)、(2)の手形金合計一、〇〇〇、〇〇〇円および本件(1)の手形金五〇〇、〇〇〇円に対する満期の翌日である昭和四七年三月一六日から、本件(2)の手形金五〇〇、〇〇〇円に対する満期の翌日である同年同月二六日からそれぞれ完済まで手形法所定年六分の割合による利息金の支払を求める。

二、被告前畑五男は、「原告の請求を棄却する。」との判決を求め、請求の原因事実に対する答弁として、つぎのとおり述べた。

請求の原因事実をすべて認めるが、本件各手形は被告坂本萬七こと阿渡萬七に対し融通手形として振り出されたものである。

三、被告坂本萬七こと阿渡萬七は、「原告の請求を棄却する。」との判決を求め、請求の原因事実をすべて認めた。

理由

一、原告主張の請求の原因事実はすべて当事者間に争いがない。

二、そこで、本件各手形の振出人である被告前畑とその所持人である原告との間になされた支払場所の変更に関する合意の効力について判断する

満期前に約束手形の振出人と所持人との間で手形に記載された支払場所を変更する旨の合意がなされたときは、合意された場所における手形の呈示はその当事者間において支払呈示の効力を有するにとどまらず、その場所における支払の拒絶があれば、右手形の所持人は裏書人等に対し償還請求をすることができるものと解するのが相当である。

なんとなれば、約束手形の支払場所は、支払呈示をする所持人およびこれを受ける振出人の両当事者にとって重要な利害関係があるとしても、それ以外の手形関係者にとっては直接の利害関係がないから、右のような合意された場所における支払拒絶も遡求権行使の前提要件としての支払拒絶と解するに妨げないからである。このことは、拒絶証書令第二条第一項第五号、第七条第一項但書が拒絶証書作成の場所につき拒絶者の承諾があるときは法定の場所以外において作成することを妨げないと定めているが、これらの規定も、支払呈示の場所や拒絶証書作成の場所は手形の呈示者とその相手方の合意に委ねていることを前提としているものと解されることによっても首肯できる。

したがって、満期前に本件各手形の振出人である被告前畑とその所持人である原告との間においてなされた右各手形記載の支払場所を変更し同被告の住所で呈示すると定めた合意は有効であって、原告がその合意に基づき満期に同被告の住所で支払のため本件各手形を呈示し、支払が拒絶された以上、原告は、同被告に対してはもちろんのこと、裏書人である被告坂本こと阿渡に対しても償還することができると解すべきである。

三、なお、被告前畑は、本件各手形を被告坂本こと阿渡に対する融通手形として振り出したものであると主張するけれども、いわゆる融通手形なるものは、被融通者をしてその手形を利用して金銭を得もしくは得たと同一の効果を受けさせるものであるから、その手形を振り出した者は、被融通者から直接請求のあった場合に当事者間の合意の趣旨に基づき支払を拒絶することができるのは格別、その手形が利用されて被融通者以外の人の手に渡り、その者が手形所持人として支払を求めて来た場合には、手形振出人として手形上の責任を負わねばならないことは当然であり、融通手形であることの理由のみをもって支払を拒絶することができないのであるから(最高裁判所昭和三四年七月一四日判決民集一三巻七号九七八頁参照)、被告前畑の右主張はそれ自体失当である。

四、以上のとおりであるから、被告らは各自原告に対し、本件(1)、(2)の手形金合計一、〇〇〇、〇〇〇円および本件(1)の手形金五〇〇、〇〇〇円に対する満期の翌日である昭和四七年三月一六日から、本件(2)の手形金五〇〇、〇〇〇円に対する満期の翌日である同年同月二六日からそれぞれ完済まで手形法所定年六分の割合による利息金の支払義務を免れない。

よって、原告の被告らに対する本訴請求はいずれも正当であるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九三条第一項本文、第八九条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 辻忠雄)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例